もう一つの甲子園  2001年8月1日

我が息子は現在高校3年生、部活で軟式野球をやっている。毎年、春と夏に甲子園で行われる高校野球は硬式野球である。軟式野球は「もう一つの甲子園」と言われ、同じようにトーナメント形式の試合が全国で展開される。中学から野球を始め、高校も彼の意志で軟式野球部に入った。1年生の夏、退部届を出す寸前までの状況になった時がある。

彼はバンドを組み、ドラムをやりだしたのである。退部を思いとどまらせる説得に、私たち夫婦は苦労した。彼に内緒で監督や野球部の先輩の人達に説得をお願いした。何が決め手になり彼が退部を思いとどまったかは今だに謎である。そして、彼にとって高校生活最後の夏が来た。

守備はサード、打順は5番である。チームは春の愛知県大会の準優勝チームである。この夏の大会はシード校で、2回戦からの試合になる。その試合は、7月24日に行われた。彼は先制の2点タイムリーを放った。相手チームは愛教大付属高校、15対5の5回コールド勝ち。3回戦は7月26日、相手は大同高校であった。5対1と順調な勝ち方が出来た。いよいよ、27日の決勝戦となった。

自チームの投手が打たれたヒットは1本であったが、2点を取られて終盤を迎えた。8回裏ツーアウトまでヒットなしの大苦戦、6番打者がライト前シングルヒットを打ち、何とかノーヒットノーランを阻止した。そして9回裏を迎え、点差は2点。
先頭8番打者が1塁へヘッドスライディングするも空しくワンアウト、誰もがこのまま試合終了だろうと思った。相手チームの応援団から「東海大会決まったぞ!!」とウイニングコールが始まり出した。

             

しかし、そこから9番バッターがセンター前ヒットで出塁、次ぎの1,2番打者が連続の四死球と盗塁で待望の1点が入った。“筋書きのないドラマ”の始まりである。ワンアウト、ランナーは1、2塁、長打が出れば一発逆転である。頼みの3番バッターに気合いが入った。そして、私たち応援団にとってミラクルが起きた。レフトオーバーのタイムリーヒットが放たれたのである。絵に描いたような奇跡的逆転サヨナラヒットでゲームセット。

この決勝の相手チームには昨年秋、今年の春、そして夏と3試合連続のサヨナラ勝ちをしており、縁起のいい相手であったが、その分相手チームは“打倒豊川高”に燃えていた。平成13年度夏の県大会決勝戦は涙、涙のサヨナラ勝ちで優勝となり、春・夏の東海大会(愛知,岐阜,三重,静岡)連続出場が決まったのである。

この夏の全試合を通してつくづく感じた、野球は筋書きのないドラマ、野球は全員の力があってこそである。1・2年生を中心とした応援団の声援は勝ち進むにつれドンドン上手になった。決勝戦はまさに気合の応援であった。あの応援が崖っぷちでの奇跡を呼んだと言っても過言ではない。

1年生のあの時退部していたら・・、彼にも私達夫婦にもこの感動はなかった。高校時代の部活動で彼の人生感は大きく変わったであろう。体力、技術、そして何よりも精神力が身に付いたと確信する。以前は試合や練習を私たちが見に行くのもいやがった。しかし、最近ではそれも諦めたのか、気にしていない様子である。いつだったかグラウンドで選手達のノックを受ける姿を見て本当に感動した。

私は、それ以来選手達を尊敬するようになり、応援に行った試合の見方も変わった。「近頃の若い奴は・・」とか言って若者を尊敬する大人が少ないと思う。信じがたい若者の事件が多いのもそんなことが遠因になっているのでは・・。

我が子に限らず親が子供達を尊敬しないことが、社会に悪影響を与えているのである。野球に限らず色々なスポーツで、暑い夏、泥まみれになって練習している選手にエールを贈りたいと思う。勝っても負けても夢と感動を与えてくれた選手達に心から感謝したい!!


水田のひとり言トップページ    ホーム